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触れられる「記憶」

触れられる「記憶」

最近、待ちに待ったものが私のもとにやってきた。丁寧に梱包されたB4サイズの大きな「本」。開封するのでさえも緊張が止まらない。この本の正体は、昨季のBリーグB1全クラブの写真を詰め込んだ写真集。著者の安井麻実さんがこだわりにこだわり抜いた一冊だ。

そこには、安井さんだからこそ撮ることができた世界が広がっていた。1ページ1ページにたくさんの想いが詰まっていて、圧倒された。最後のページに到達するまで、どれぐらいの時間が経っていただろうか。時間を忘れるほどに没頭していた。携帯の画面で見る写真とは全く違う、紙だからこその感動があった。

シリアルナンバーの入ったこの写真集を目にした時、これを手にすることができて、本当に良かったと思った。家で大切に飾り、時間があればずっと見ているほどだ。自分の手で触れることのできる昨シーズン。会場で観戦をすることができなかった私にとって、これほどに輝いて見えるものはなかった。SNS上でこの写真集を手にした人たちが様々な感想を伝えあっているのを見て、この写真集に詰まった想いの力を感じた。

安井麻実著 「BE THE ONE B.LEAGUE 2019-2020 SEASON PHOTO BOOK」

現在私たちは、新型コロナウイルスの影響で活動することができていない。年に6回発行する新聞は、この時期にはすでに3号発行していたはずだったが、今年はいまだに1号だけだ。「いまどき、なんで新聞?」。この2年半、多くの人に聞かれたことだ。デジタル化が進む中で紙の新聞を発行することは確かに時代に逆行しているのかもしれない。はじめは答えることができなかった。決して新聞を作ることが得意ではなかったし、新聞作成が苦だと思ったこともある。活動ができなかった期間、「新聞を作ること」の意味をたくさん考えた。

その中で、先ほどの写真集があることに気づかせてくれた。「触れられる」ということの大切さだ。画面を通して見ることと、実際に手に触れて、その大きさや質感を感じながら見るのとでは、感じ取れるものが違う。新聞は、ボタンを押すだけで消せるものではなく、その人の手に残り続ける。ずっと残り続ける「記憶」だからこそ作る。これが今のわたしに出せる答えだ。

学生記者としての私に残された時間は多くはない。だからこそ、その瞬間を切り取った写真、現場の記者が感じた想い、選手やチームの軌跡、その全てを詰め込んだ関大スポーツをもう1度作りたいと思う。KAISERSの「いま」を追いかけ、最後までこの触れられる「記憶」を多くの人に届けたい。【金田侑香璃】

△2020年初の関大スポーツ(296号)

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